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第1回 ジンバブエ・ミュージシャンズデイ その2 

その日が来た

 10月10日。会場は街なかにあるハラレガーデン。ジャカランダの薄紫の花が満開。天気は快晴。10時からというのに、9時ごろからスタンバイする家族とコカ・コーラ屋で、あたりはもう、お祭の雰囲気になっている。
 ここでは定刻に近い10時40分、MC(司会者)の「マングゥワナニ(おはよう)!」からはじまった。
 「みんな!おなかはすいてないか? 今日は音楽を、お腹いっぱい食べてくれ! 今日はチトゥングイッザ(ハラレから約24kmのところにある、大規模な元黒人居住区。人口密度が高く、ここだけで人口は40万人)がハラレを占領しそうだ。用意はいいか?」
 ンビラ3人組に女性ボーカル。ひまわりのようなドレスを着た女性が3人、水がめを持って、踊りながらステージに出てくる。空から鈴が降りてくるような歌声と愛くるしい踊りに、自分がいま、アフリカにいることを思い出す。
 あっという間に次のバンドに変わる。今日は1バンド10分の演奏だ。
 ンビラの名人トーマス・ゴラ。独特の声を宙にひっかけ、折り曲げる。1分毎に観客がドーッと沸く。歌詞がおもしろいのだ。私も、友人に、ゴラの歌を英語に直してもらいながら聞いたことがあるが、ンビラのうねりに酔い、不思議なユーモアに、転がるほど笑った。
 笑いのうちにゴラのステージは終わり、真っ白いサテンのシャツを来たメカニック・マニェルケの登場。いっせいにおどろくほどいっせいに、観客が片腕をつき上げる。こんなに人気があったとは。マニェルケの柔和な顔は、誰をも安心させてくれる。みんなのために、すばらしいゴスペルを歌ってくれるのは、彼しかいない。このコンサートの計画を話した時、彼はその場で了解してくれた。軽快なゴスペル。マニェルケの歌は、感性と波のように交わりながら、いつのまにか私たちを地面より一段高いところに、ふわっと持ちあげてくれた。
 ひと息ついてふと気がついたのは、いつの間にか自分がステージの真ん中からじわりじわり押されて右側に立っており、そこいらじゅうが人の波だということ。爪先立って後を見ても、人の波の最後が見えない。老若男女に赤ちゃん、あらゆる人がまわりにいた。
 左側をみると、木に人が鈴なりである。その、人のなる木を見てるあいだにも、体は、じわじわ押されて移動していく。ひとまず外側に出よう。漕ぐようにして人波から出ると友人が手招きしている。
 来賓席というのだろうか、ほどよい木陰の下にロープを張り、中に応接室用の椅子が3列並んでいるところに案内された。
 椅子に座ったとたん、見知らぬ人が数人、手を差し出してくる。こちらも帽子をとって、ショナ式の挨拶をする。
 ステージから元気な声が聞こえる。立ち上がって見ると、ビギー・テンボだった。この日のために新調したという、白と黒の、大きな縦じまのスーツを着て、英語とショナ語で観客に挨拶を送っている。
 「ハロー、マシカティ、ハウ・アー・ユー、ステレク・・・楽しんでいるか?ほんとうか?・・・・・」
 明るくて元気な人なのだ。ブンドゥー・ボーイズ(やぶの中の少年たち)のメンバーとのいさかいからグループを抜け、しばらくはオーシャン・シティバンドと一緒にライブをやっていたが、先ごろ、ゴスペルシンガーになると宣言した。がんばれ!という投書が新聞に載っていた。
 さて、いま歌っているのは、と見ても、誰なのかわからない。マイケル・ジャクソンのダンスの真似をして退場。次は英語のバラードで、これじゃあ踊れないと観客はしらけるが、歌っている方は目を閉じて、すっかり、すっぽり夢の中。
 と、その時、なにが起こったのか、静かに座っていたステージ前の観客が立ち上がり、後ろの方からは、押すな、押せ、と、観客がステージの方に向かいはじめた。
 一度動き出したものは止めようがない。立ち上がってジャンプしてみると、あの、ミスター・チトゥングイッザことジョン・チバドゥラが、演奏の準備をしているのだった。赤いサテンの、胸にフサフサのついたカウボーイのようなシャツから、いつの間にか白黒のシャツに着替え、大きなカールの、パーマをあてた髪が光っている。
 愛を歌い、マジェラシィ(嫉妬)を歌い、貧困を歌う人気者。もう、会場は大合唱である。制服を着た女学生が5~6人、私の前後左右で踊りだす。まったく、今、この時を逃すわけにはいかないンダ、とでもいうような勢いである。この大拍手と声援に、真正面から応えるように、ステージの上でジョン・チバドゥラが踊る。この時の彼の写真が、翌日のサンディタイムス紙の一面を飾った。
   

  (1997年10月31日 長征社発行「ZIMBABWE」 高橋朋子著 より抜粋)

高橋 著書 「ZIMBABWE」
         

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